データ保護専門企業のエノバイトは、2017年にミュンヘンでオペレーティングシステムUNIXのエキスパート集団によって設立されました。以来、欧州や日本を拠点とする日系グローバル企業のEU一般データ保護規則(GDPR)対策サポートに特化したサービスを展開しています。日本語、ドイツ語、英語をはじめとするマルチ言語を巧みに操るグローバルチームは、データ保護の専門知識と20年以上の実務経験により培われたノウハウを兼ね備え、顧客のGDPRコンプライアンス、および安全なITシステムとITインフラ構築のサポートに日々尽力しています。今回の「Sponsored Special」企画では、エノバイトの代表取締役であるDr.ヘルマン・グンプ氏に、日本企業に焦点を当てた経緯、日本企業が求める要件、およびDX時代における日本企業の事業成功にエノバイトが果たす役割についてお話を伺いました。
―― まずは、御社の設立背景について教えてください。
ヘルマン・グンプ:エノバイトを設立する以前の学生時代から、友人と共にITコンサルティングをしていました。その後、Gumpp & Partnersという小さなコンサルティング会社を立ち上げ、ソフトウェアやホスティング等に纏わるプロジェクトを請け負うようになりました。小さな会社ではありましたが、当時のお客様の中にはAllianz Versicherung(アリアンツ保険)や日本の中小企業が数社含まれていました。
エノバイト創業のきっかけは、2016年に欧州でGDPRという新しいデータ保護の法律が導入されたことです。当時Gumpp & Partnersの顧客だった日本の大手総合人材サービス会社、パソナグループ子会社の顧問弁護士から、同社のGDPR対策導入サポートをしてほしい、と依頼されたのが全ての始まりです。GDPRは2016年に発効されましたが、実際の施行開始日は2018年5月でした。この施行開始日を過ぎると、対応ができていない企業はGDPR違反として高額な制裁金の対象となるため、それまでに対応準備を急ぐ必要があったのです。この依頼を受けてから、私たちは同社のコンプライアンス遵守をサポートすべく、すぐにGDPRという新たな枠組みの対策に着手しました。その時期、パソナグループ子会社の複雑なウェブアプリケーションのホスティングを請け負っており、個人データを大量に抱えていたため、GDPR対策に急遽取り掛かる必要がありました。

この一件を通じて、多くの日本企業がGDPR対策に不安を抱いていること、また、専門家からのサポートへの需要が高まっていることに気づかされました。特に、GDPR対策には法的および技術的なアプローチが必須であるため、これまでの経験とノウハウを活かし、日本企業を技術的な観点からサポートしたいと考えるようになりました。こうした経緯から、Enobyte GmbHはデータ保護の専門企業として2017年5月に誕生しました。
―― 会社名は何に由来していますか?
ヘルマン・グンプ:実は、江ノ島電鉄(通称、江ノ電)の影響を受けています。東京の旧称である 「江戸」を意味する江ノ電の「江」からE-no-byteのアイデアの着想を得ました。EnobyteのEは「ヨーロッパ(Europe)」も表現することができます。さらに、当社のロゴは日の丸の「日」を三つ組み合わせてできており、日本の家紋のようにも見えます。一方で、かつて米国に本社を置いていたIT企業、サン・マイクロシステムズ社を想起させる意図もあります。昔からのITオタクであり、サン・マイクロシステムズのファンである当社は、同社へのオマージュとして、「SUN」という文字で構成された彼らのロゴを日本の「太陽」に置き換えて再現しています。


―― ご自身の日本との繋がりについて教えてください。
ヘルマン・グンプ:私が日本に興味を持ち始めたのは1990年代半ばのことです。今やマネージングパートナーであり、良き友人でもあるマーティンが日本文化を紹介してくれたことがきっかけです。当時は、インターネットが一般人にも普及し始めた頃でした。友人たちの間では漫画やアニメへの興味関心が急激に高まり、皆日本のサブカルチャーやオタク文化に釘付けでした。当時のテクノロジーや家電製品のほとんどが日本から輸入されたもので、日本の大衆文化は、最新のテクノロジーをとても肯定的に描いてたのが印象的でした。人間と機械が調和しながら共存してる様子を描いた日本の作品の数々は、これからやってくる革新的な未来を表現しているように見えました。いろいろな意味で、日本はすでに未来を生きているようで、当時の私には日本がとても魅力的に映りました。
1999年ミュンヘン大学に入学し、情報工学を副専攻としながら、物理学を学んでいたある日、マーティンに誘われ大学の日本語コースに申し込むことになりました。日本語を学び始めると同時に合気道にも通い始め、勉強と趣味を両立させた充実した学生生活を送りました。2001年には東京へ渡り、趣味では道場で3ヶ月間合気道の稽古をしながら、データベース管理者およびPHPプログラマーとして忙しい日々を過ごしました。これが私の初めての日本滞在で、これを機に日本への興味が一気に高まりました。
その後数年間、さまざまな人脈を通じて何度も日本を訪れ、数々のプロジェクトに携わりました。例えば、札幌で初めて開催されたクリスマスマーケットでは通訳を務めました。その後、日立製作所のライプニッツ計算センター(LRZ)でドイツ語教師として働き、国立情報学研究所(NII)では、128の計算ノードを持つ小さなLINUXクラスタのソフトウェア開発者兼管理者として学生アルバイトをしました。博士号取得後は、フロイデンベルグ社に務め、2019年には新潟で同社の合併後統合プロジェクトに携わる機会をもらいました。
―― 日本の第一印象と、日本がキャリアに与えた影響についてどう振り返りますか?
ヘルマン・グンプ:日本からは良い影響ばかり受けました。初めて日本を訪れたのが21歳という若さだったことも幸いだったと思っています。若さは日本では武器になるので、その若さを生かし、言語や文化に没頭しました。携帯電話などの技術分野において日本は他国よりもはるかに先を行っており、まだバブル経済の名残を感じさせる所がありました。日本のものづくり、そして、品質に対する意識や細部へのこだわりは、まさに現在自分が仕事と向き合う上での軸となっています。1990年代後半から2000年代前半にかけて日本で実際に肌に触れ体験することのできた技術的進歩、品質および創造力の高さは私のモチベーションでもあります。日本企業がデジタルの分野でもバブル期の最盛期を取り戻せるよう、エノバイトとして支えていきたいと思っています。
―― 創業年の2017年から現在までの御社の変遷について教えてください。
ヘルマン・グンプ:エノバイトは設立当初から日本企業に的を絞り、着実に成長を遂げています。2018年には、日本でも有名なサイバーセキュリティの専門家である足立照嘉氏と共に、GDPRガイドブックを日本語で出版しました。この本がアマゾンジャパンでベストセラーとなり、すぐに市場で高い評価をいただきました。ここでの成功が、大手クライアントの獲得や新たな市場開拓へとつながっていると確信しています。ミュンヘンオフィスの規模を拡大し、日系企業が多く集うデュッセルドルフにも小さな拠点を設けました。また、2019年には東京に姉妹会社の株式会社エノバイトを設立し、直近ではロンドンにも拠点を開設しました。

―― 設立当初は主にデータ保護に特化していましたが、現在の主な事業分野はいかがでしょうか?
ヘルマン・グンプ:GDPRとデータ保護は当社にとって出発点でしたが、現在はITセーフティ、ITセキュリティおよびサイバーセキュリティを全面的に扱っています。ITインシデントや個人データ漏えい等が発生した場合には、24時間365日対応できる体制を整えています。
GDPRを単なる法的課題として捉える企業の多くは、法的助言に集中する傾向があります。しかし当社では、GDPR対策の中核は技術的および組織的課題であり、このDX時代において、データ保護対策とITセキュリティ対策は切っても切り離せない表裏一体の関係であると考えています。確かに、GDPRの施行により、ウェブサイト上でのプライバシーポリシーの公開等、多くの文書化および情報提供義務が課されるようになりました。当然、法的な文書を揃えることも大切ですが、技術的対策が伴っていなければ机上の空論になります。ここで、GDPR対策の特に技術的サポートに特化しているエノバイトの強みが発揮されます。多くの有名な法律事務所と提携し、法的助言は法律事務所が、技術実装のサポートは当社がそれぞれ担当し協力してサポートするようになったのです。
GDPRは、今後数年間で施行される新しい法律のモデルとして位置づけられています。つまり、法が発効されても単に法的助言を仰ぐだけではなく、企業は技術面と組織面の両方でこの法律を実装する必要があります。

―― 御社の日本の顧客にはどのような企業が多いのでしょうか?
ヘルマン・グンプ:顧客は幅広く、業界や企業の性質によって求められることも異なります。大きく分けると、B2B企業とB2C企業があります。B2Cでの代表的なお客様は、ホテルチェーンの東横INN社です。同社はフランクフルトとマルセイユでもホテルを運営しており、多くの宿泊者の個人データを取扱わなければなりません。ホテルでは宿泊者との直接的なやり取りが多く、データ保護はとてもセンシティブなテーマです。そのため、従業員がそれに応じたトレーニングを受けることが重要になります。トレーニングでは、受付スタッフはどの情報を宿泊者から提供してもらう必要があるのか、聞いてはいけないことは何か等、実務的な重要事項を様々な例を用いて学んでいきます。トレーニングの他にも、オンライン予約サイトのGDPRコンプライアンスを実現するためにITサポートにも携わっています。
一方、B2Bの企業では経営責任者が十分なデータ保護トレーニングを受講していることが重要になります。サイバーセキュリティは、チーム全員が一丸となり協力しなければならない「チームスポーツ」に例えられます。そのため、マネジメント層がしっかりと法的枠組みを理解し、データ保護やITセキュリティが社内で適切に実施されているのかを日頃から確認できなければなりません。
また、B2BとB2Cの境界に位置する顧客もいます。代表例が食品メーカーのキッコーマン社です。同社は小売店に対してビジネスを行いつつも、最終顧客からのブランド評価も非常に重要視しています。そのため、彼らにとって重要なのが耐久性のあるインフラと、SNSやウェブサイト等オンライン上における透明性のあるプロモーション活動です。
新たな市場としては、自動データ処理を行うAI企業が挙げられます。今後も大きな成長が見込まれるAI業界に対し、ここ数年のうちに新たな規制や法律が導入される見通しが立っています。
―― これまで支援された企業は何社ですか?また、具体的なサポート内容も教えてください。
ヘルマン・グンプ:現在当社のサービスを利用している日本企業は100社を大いに超えます。その半数以上が、データ保護オフィサー(DPO)アウトソーシングサービスおよびITセキュリティサポートを利用しています。顧客の企業規模は従業員が10名以下の小さな企業から数千人を超える大企業まで多岐に渡りますが、割合で見ると大手企業が圧倒的に多いのが現状です。中には、欧州に10拠点以上を持つお客様もいらっしゃいます。
当社では、24時間365日緊急対応を保証するサービスレベル契約(SLA)を提供しています。GDPRでは、データ漏洩が発覚してから72時間以内にインシデントについて監督当局へ報告することが原則的に義務付けられています。2024年10月に国内法への移行が義務付けられ、欧州域内のサイバーセキュリティをさらに強化することを目的としたNIS2指令(ネットワークおよび情報システム)では、さらに厳しい24時間以内の報告義務を課しています。
また、Webサイトのコンプライアンス診断、GDPRおよび関連法遵守の監査、およびその他のデータ保護やITセキュリティに関する相談対応等の業務もあります。数年前からは、TISAX(Trusted Information Security Assessment Exchange)についての問い合わせも増加しています。TISAXは、自動車業界で使われる情報セキュリティの認証です。認証時のテスト結果を交換することで、サプライヤー同士が互いのリスクを簡単に評価することができます。
また、当社には独自のソフトウェア開発チームがあり、AIの機械学習を使って大量のデータを分析したり、当社のソフトウェアを使って大規模言語モデル(LLM)でプライバシーポリシーを自動生成したりしています。他にも、新規顧客から、ハッキング等による緊急サポート要請が電話でくることもあります。その場合は、できる限り被害を最小限に抑えるべく、早急にチームで対応します。
インフラの分野においては、各拠点間のセキュアな通信に重きを置いているドイツの知名なグローバル企業とも取引があります。Sicherheitsnetzwerk München e.V.の創立メンバーでもある当社は、このインフラの分野に長けており、特にコロナ禍にて、大幅に事業拡大することができました。また光栄なことに、ホテルバイエリッシャー・ホーフで開催された2021年のミュンヘン・サイバーセキュリティ・カンファレンスでは、特別に安全性を強化したビデオ会議プラットフォームの設置・運用依頼を受けました。
―― データ保護とサイバーセキュリティの観点から想定される最悪のシナリオとはどのようなものでしょうか?
ヘルマン・グンプ:典型的な例は、欧州に拠点を構えている大手日本企業のインフラ全体を麻痺させるようなランサムウェアへの感染です。大手企業の場合、何千人もの従業員のパソコンが欧州全土、あるいは世界規模のネットワークで繋がっています。これは、各国間のコミュニケーションやデータの交換を容易にするためとても便利である一方、マルウェア感染の場合、またたく間にウイルスの感染が拡大し、すべてが破壊されてしまうリスクを伴います。こうした被害を未然に防ぐには、ネットワークの分離やマイクロセグメンテーションを利用することがおすすめです。これにより、万が一ネットワークで問題が発生しても、すべてのシステムへ簡単に感染が広がっていかなくなるため、問題が発生している箇所にのみ部分的な措置を講じれば良くなります。しかし、ネットワーク構造の最適化は重要視されにくく、後回しにされる傾向にあるのが現状です。
もう一つの例は、ハッキングによるパスワードの流出です。ハッカーが大量のパスワードが保存されているデータベースに不正アクセスを行い、パスワードを盗むあるいは推測することにより起こるインシデントです。こうしたインシデント対策に有効なのが、ハードウェアトークンを使った多要素認証(MFA)です。MFA用のハードウェアトークンは、ログイン時に本人確認をするために使用される小型デバイスで、USBに形状が似ています。ハードウェアトークンの価格は20〜50ユーロとお手頃です。すべての従業員に一つずつハードウェアトークンを配布すれば、比較的低コストで強力なサイバーセキュリティ対策を実現することが出来ます。これは、実装が簡単かつ効果性が高いので、当社ではすべての顧客にお勧めしています。


―― 大きなリスクがあるにもかかわらず、多くの企業がサイバーセキュリティを十分に確保できていないのはなぜでしょうか。
ヘルマン・グンプ:「まだ何も起きていない」、「ハッカーが自分たちに関心を持つわけがない」という危機管理意識の欠如が主な要因だと思います。こうした発言は、その会社がサーバーやネットワークの監視を十分に行っていないことを示すサインでもあります。ほとんどの企業は日々どれだけのデータがどの国に出入りしているのかを把握していません。しかし、今年施行された新しい法律により、該当する全ての企業には自社のITインフラを監視する義務が課されるようになりました。この法律により、企業はようやく自社が以前から直面していた課題に気がつくようになりますが、ほとんどの場合はそれらの問題を正確に特定したり、その問題の深刻さを評価したりできるにまでは至らないと考えます。
人間は、問題発生の原因となることがあってから、実際にその問題が発生するまでの時間が長くなると、その原因が何であったかを忘れてしまうことが多いです。人間の脳は、約半年経つと何が原因で問題が起きたのかを思い出しにくくなると言われています。例えば、風邪の場合は感染してからすぐに症状が出ますが、サイバーセキュリティの問題はそうではありません。小さな問題の積み重なりが原因となり、気づかないうちに大きな複雑な問題となって現れることがあります。当社の重要な仕事のひとつは、こうしたリスクに対する認識を高めることです。また、問題を可視化するために、顧客向けの監視システムを構築しています。

―― では、ドイツに進出している日本企業は、ハッカーにとって他の現地企業とは異なる標的になる可能性がありますか。それとも同じような問題に対処する必要があるのでしょうか?
ヘルマン・グンプ:ほとんどの「ハッカー」は実際の人間ではなく、インターネット上を動き回り、セキュリティの脆弱性を攻撃する自動化されたボットです。これらのハッキングシステムにとって、企業の位置情報は関係ありません。多くの日本企業は過去20年間、ITセキュリティに十分な投資をしてきませんでした。ハッカーの攻撃を受けた時には高額な身代金を日本の保険会社を通じて支払ってきました。その結果、サイバー犯罪者は受け取った身代金を活動資金にますます勢力を拡大し、その被害は保険でカバーできないレベルにまで達しています。この危機的状況をきっかけに、日本企業はようやくセキュリティの重要性に目覚め始めたのです。
―― 日本とドイツのデータ保護における違いを教えてください。またそれは御社にとってどのような意味をもたらすのでしょうか?
ヘルマン・グンプ:ナチス時代や東ドイツ時代に多くの人々が監視に苦しんだ苦い経験があるので、ドイツの人々は歴史に対する意識が比較的高いです。こうした歴史的な教訓により、現在ドイツでは世界で最も高いデータ保護基準を設けています。日本の規制はドイツのものほど厳しくありませんが、欧州と類似レベルのデータ保護水準を確保していると欧州委員会に認められ、2019年に欧州と日本の間で十分性認定(Angemessenheitsbeschluss)が採択されました。ただし、欧州から日本へ移転されるデータが欧州と同等のレベルで保護されるようにするために、追加的な保護措置として「補完的ルール」が導入されました。結局のところ、ITセキュリティに対する根本的な課題はどこでも同じであり、場所にかかわらずハッカーは最も簡単な標的を探そうとします。GDPR施行当初、多くの企業はGDPR違反による罰金を恐れていました。しかし、本当に企業が恐れるべきなのは、罰金ではなく、サイバー攻撃であることが徐々に認識され始めているように感じます。
経営レベルでは、日本とドイツで違いを感じることがあります。多くの日本企業は厳格な階層構造を持ち、意思決定を慎重に行います。日本の本社と欧州の子会社間のコミュニケーションには言葉の壁もあり、しばしば困難が伴います。そのため、当社が顧客との信頼関係を築くには、日本側と直接コンタクトを取ることが非常に重要です。私たちは定期的に日本を訪れ、セミナーやミーティングを通じて日本本社の社員に日本語でITセキュリティの重要性を説明するようにしています。日本側の理解があって初めて、トップダウン・アプローチによるグループ全体でのITセキュリティ対策が実現し、会社全体の基盤整備に繋がります。
国ごとの細かい法規制の違いには、その国の仕組みに精通している当社のDPOチームが対応しています。また、顧客が今後数年間でどのような方向に進んでいきたいかを見極めることも重要です。企業全体を俯瞰し理解することで初めて、顧客のニーズに合った最善のアドバイスを提供することができるのです。日本の大手企業の多くは非常に長期的な視点で物事を考えるので、信頼関係が大きな役割を果たします。そして、私たちに信頼を置いてくださる顧客の皆様には深く感謝しています。日本では、何年も何十年も努力を積み重ねて信頼関係を築いていかなければなりません。私と同じように、日本のビジネスに長く携わっている者なら誰もが同じような苦労をしていると思います。こうした理由から、日本企業にフォーカスしている当社は顧客とともに持続的に発展し続けることを目指しています。

――御社が日本企業にとって理想的なパートナーである理由は他にありますか?
ヘルマン・グンプ:欧州市場に進出している日本企業の経営者の多くは息をつく暇もないほど忙しいです。多忙な経営者の負担を軽減すべく、当社では、法律と技術の両側面をカバーし、日本の企業文化を考慮した、欧州市場で最適なソリューションをオールラウンドパッケージとして提供しています。例えば、欧州ではデータ保護法の観点から何が可能か、どのITサービスプロバイダーが欧州で優れているか、といった相談に対応しています。日本企業はシリコンバレーに注目しがちですが、欧州にも低価格で高品質なサービスを提供する優秀なプロバイダーが多く存在します。欧州市場に精通した当社だからこそ、それぞれの顧客のニーズに合うプロバイダーを紹介することができるのです。

GDPR対策に関して、最小限の労力で迅速に対応したいと考える企業もいますが、これは間違ったアプローチです。問題の根本が解決されていなければ、長期的により多くのコストがかかることになります。このような事態を避けるために、基礎からのしっかりとしたサポートを心掛けています。日本の伝統文化である茶道や武道では、基礎が非常に重要視され、その訓練に多くの時間が費やされます。しかし、ITセキュリティの分野では、このような文化的基礎が軽視されがちです。残念なことに、多くの企業がサイバーセキュリティの基礎訓練を受けずに、人工知能などの最新のテクノロジーを活用しようとしています。私たちの目標は、この不確実な時代において企業のリスクを最小限に抑え、レジリエンスを強化することで、ITにおける持続可能性とITによる持続可能性を実現することです。この分野において、当社は日本企業に大きな付加価値を提供することができると確信しています。
―― 日本企業がドイツに拠点を開設する際に考慮すべき点は何ですか?
ヘルマン・グンプ:まずは、法的要件と現地で利用可能なインフラについて理解することが重要です。このプロセスを後押しするために、当社では企業がデータの種類や範囲、データ処理の目的、既存のデータ保護対策を分析できる日本語の自動GDPRアセスメント診断を提供しています。入力してもらったアンケートの回答に基づき、必要な組織的および技術的対策を推奨し、データ保護対策レベルの向上を図ります。外部のデータ保護オフィサー(DPO)としては、適用されるデータ保護法および関連法について、経営責任者や従業員に対しトレーニングを実施します。技術面では、ホスティング会社の選定を支援したり、リスク評価を実施したりします。みんなが使っている有名なクラウドプロバイダーよりも、はるかに安価で優れた選択肢をリストアップしたリストも持っています。
成長志向の強い中小企業には、初期段階からデータ保護と情報セキュリティの管理システムを導入し、会社のプロセス、リスク評価および責任を文書化するよう推奨しています。この管理システムを運用することで、企業は成長に欠かせない基盤を固めることができます。また、TISAXやISO 27000のような認証取得を目指す場合、管理システムを導入・運用していると、認証取得に必要ないくつかの要求事項を簡単に満たすことができます。
―― 欧州で長く活動し、システムを確立して成長してきた企業が直面する主な課題は何ですか?
ヘルマン・グンプ:歴史の長い大手企業では、ITに対する考え方が世代間で異なり、それを調整することが課題となります。ドイツでも日本でも、ITはキーボードのような単なる実用的なツールであり、会社の中核事業ではないという20世紀的な考え方が根強く残っています。両国は第二次世界大戦後、ものづくり、つまり製造業で大成功を収めてきました。この50年の間にソフトウェアの活用によって自動化できる分野がどんどん増え、物理的な世界では、コンピューターというハードウェアは情報処理の手段となりました。日本では特に、ITが全ての業種に不可欠だと考えるデジタルネイティブ世代がいますが、日本特有の上下関係によりその次世代の考え方を上の世代に伝えることが難しいという文化的な課題があります。
エノバイトは、若くて熱心な従業員の声に耳を傾け、どんどんアイデアを取り込んでいきたいと考えています。私たちはDPOの経営陣に対し直接助言ができる立場を利用して、顧客の企業に新しいアイデアを浸透させ、企業改革について一緒に考えることができると思っています。
合気道の師範がかつて「私のお茶を飲みたければ、まずは自分の茶碗を空にしなさい」と言ったように、ITに対しても根本的な考えを見直し新しいことを受け入れるためには、まず自分の茶碗を空にする勇気が必要です。長い歴史を持つ日本企業は、常に変化し続けています。これは、日本企業が自己改革に長けている証拠でもあるのです。


―― 欧州市場やIT分野において、日本企業に今後必要な覚悟や準備には何が挙げられますか?
ヘルマン・グンプ:サイバー攻撃は今後も増え続けると考えます。地政学的な緊張もこれに拍車をかけています。データ主権は今後も大きな課題になると思いますが、多くの日本企業はこれにうまく対応していけると信じています。日本企業は世界でも類を見ない強い義務感と高い品質意識を持っており、課題に対しても構造的かつ現実的な方法で取り組む傾向があります。リスクへの意識が高まり、適切な体制が整えば、日本は将来デジタルの世界で非常に有利な立場に立つことができると思います。
現在、高品質かつ高価格なソフトウェアの市場はまだそれほど大きくありませんが、日本企業がこの可能性を認識し、高い品質基準の意識をデジタル界に持ち込むことができれば、大きな成功を収めることができると確信しています。2000年代初頭に日本を象徴した創造性と高品質が、デジタル界やインターネット上でも大きく発揮されることを期待しています。
欧州のダイナミックな発展は、多くの国からの影響があってこそ実現しています。私は、欧州と日本が互いに学び合うことができると信じています。日本は欧州の規制やセキュリティ分野におけるダイナミックな動きから良い影響を受け、欧州は逆に日本の高品質や規律に関する考え方から大きな学びを得ることができると思います。
これは、エノバイト自身にも当てはまります。当社は日本と欧州の両方から多くを学び、沢山の恩恵を得ています。エノバイトとしての目標は、顧客サービスを大切にする日本のおもてなし精神をITサービスに導入することです。この実現により、一人ひとりが強い責任感を持ってデジタル化を進めていくことで、誰もが未来に対して不安を持つことなく前進していける未来を目指しています。つまり、当社の目標は、データ保護とセキュリティに重点を置き、誰もが安心してデジタルに取り組めるような、人々のためのデジタル化の環境づくりです。
―― 現在、企業はリスクに対する不安が高まっており、主に防御に焦点を当てていますが、楽しみながらデジタル化を実現する方法について教えていただけますか?
ヘルマン・グンプ:茶道からはたくさんのことを学べます。茶道には「和敬清寂」という四字熟語に込められた精神があり、調和・尊敬・清廉と並んで、閑寂という意味を持っています。閑寂は、最初の三つの精神を満たしたときに達成できる究極の精神状態です。茶道の教えは、今日のインターネットの状況にも当てはめることができます。茶道は日本の中世、暗い戦乱の時代に生まれた文化です。その精神を心に刻み、茶室や茶道具の清掃を怠らず、準備に時間をかけ、決められた手順を実践することで、お客様が到着したときに落ち着いてお迎えすることができるのです。一つ一つの動作が非常に大切です。道具を丁寧に扱い、時間の経過とともにそのプロセスを楽しむと、手順の美しさに気付けるようなります。ITに置き換えて実践すれば、目標を追求するばかりではなく、セキュリティに配慮した美しいプロセスを設計することができるということです。貴重なデータを貴重な茶碗のように大切に扱い、セキュリティが向上すれば利便性も自ずと向上します。これこそが、当社が目指す美しいソリューションです。要するに、国際協力、長期的な戦略思考、そして一貫したプロセスの実践が責任ある質の高いデジタル化を追求するのに必要であり、この努力こそが最終的は実を結ぶことになるこということです。