デュッセルドルフに拠点を置く総合法律会計事務所FRANKUS Wirtschaftsprüfer Steuerberater Rechtsanwälte PartGmbB(以下、FRANKUS)は、ドイツ国内および国際的な税務・法務の分野において確固たる地位を築いている中堅のアドバイザーの一つです。同事務所はドイツ企業のみならず、国際的なクライアントも多数有しており、特に日系企業に対して40年以上にわたりコンサルティングサービスを提供してきた強力な日本専門チームを擁しています。今回、J-BIG編集部は、FRANKUSのパートナーであり、日系企業向けのサポートに注力している西村東陽氏にインタビューを行いました。同氏には、FRANKUSがどのようにして日系企業に特化したサービスを展開するに至ったか、その具体的な提供内容、さらにはドイツと日本の法制度やビジネス文化の相違点がどのようにコンサルティング業務に影響を及ぼしているかについて詳しくお話を伺いました。
――FRANKUSが日系企業に特化するようになった経緯について教えてください。
西村東陽:創業者であるハンス・フランクス氏は、かつて監査法人アーサー・アンダーセンの国際部門に勤務し、日本のクライアントを担当していました。1979年にデュッセルドルフで独立し、従業員1名と秘書1名で事務所を立ち上げた際、彼はすでに国際的なクライアントへのコンサルティングに注力していました。
アーサー・アンダーセン時代、フランクス氏はドイツで最初の日本からの公認会計士である深町氏と知り合い、その縁を通じて1980年代に日系企業の進出が相次ぐ中、深町氏をドイツに招き、一緒に業務を展開することを提案しました。こうした背景から、1980年代半ばには日系企業へのサポートを本格的に開始することとなりました。当時、日本語を話し、ドイツ法と日本法の両方に精通した専門家は極めて珍しかったため、FRANKUSは深町氏の専門知識を生かして、キッコーマンやシマノ、無印良品などの有名企業を含む日本の顧客を迅速に獲得することができました。それ以来、当事務所のジャパンデスクは継続的に拡大を続け、今年で創業45周年を迎えます。
――FRANKUSに入社された経緯について教えてください。
西村東陽:私は神戸生まれですが、1967年に父の仕事の関係で1歳半のときにドイツへ移住しました。以来ドイツで育ち、フランクフルトの大手会計事務所のKPMGで監査のキャリアをスタートし、2001年に日本人初でドイツ公認会計士の試験に合格しました。その間、日本のあずさ監査法人で2年間働き、ドイツへ戻ってKPMGの監査部のパートナーに昇進しました。
当時、深町氏は69歳で、日系企業のビジネスを引き継げる人材を探しており、私に声がかかりました。FRANKUSはKPMGに比べて小規模な中堅事務所でしたが、その評判は高く、私は転職を決意しました。それ以来、私はFRANKUSのパートナーとして、日系企業向けの業務を担当しています。
――入社以来の変遷について教えてください。現在の日本人チームはどのような編成ですか?
西村東陽:私が入社した当時、日本人チームは私を含めて3名で、約60社の日系企業を担当していました。それから12年が経ち、現在では日本人スタッフが10名に増加し、担当する日系企業の数も200社を超えました。現在、当事務所には日本語を話せるスタッフが12名在籍しています。
FRANKUSは、6名のパートナーと85名以上の専門スタッフで構成され、税務や法務に関するあらゆる問題に対応しています。日系企業だけでなく、他国の国際的な企業も数多く担当しています。私たちはグローバル企業に強みを持っていますが、ドイツ国内の大企業やファミリーオフィス、地元の小売業者なども重要なクライアントです。自動車メーカー・サプライヤー、化学・製薬・医療関連企業、運輸・物流関連企業、IT・エレクトロニクス関連企業、金融サービス・プロバイダーなど、幅広い業種の企業をサポートしています。
――事務所の全体的なビジネスにおいて、日系企業のビジネスはどのくらいの割合を占めていますか?
西村東陽:現在、当事務所の業務の50%以上を日系企業が占めています。80名以上いるスタッフのうち、約50名が日系企業に何らかの形で関わっています。会社全体にとって日系企業は重要ですので日系企業チームのニーズは最優先となるため組織としての対応がありがたいです。
――FRANKUSが日系企業に高く評価されている理由は何ですか?
西村東陽:評価いただいている理由は、日本人スタッフがマーケティングなどに留まらず、経理や税務、法律上のコンサルティングなど、日常業務に直接関わっていることだと考えています。、例えば、当事務所の日本人スタッフの一人は、ドイツの弁護士資格を持ち、日本語で日系企業に対してドイツの法律に関するコンサルティングを提供しています。日本公認会計士の日本人女性は主に監査業務に特化しています。ドイツ人の税理士で日本語のコミュニケーションがとれる者もいます。日本語ネイティブのスタッフが直接サポートできる点がFRANKUSの大きな強みとなっています。
そして何よりも、私たちは日本のクライアントを大切にし、コストパフォーマンスにおいても優れたサービスを提供しています。FRANKUSでは、パートナーが長年の経験を生かして直接クライアントに対応する体制を取っています。私たちはクライアントとの密なコミュニケーションを重視しており、幅広くサポートができるのです。
これらの利点が高く評価されており、口コミによって新たな案件、新規クライアントのお問合せをいただくことが多々あります。
――主にどのようなサービスを提供していますか?
西村東陽:当事務所では、設立から撤退まで、企業のライフサイクル全体を通じてサポートを提供しています。最初は、ドイツでの駐在員事務所や現地法人の設立・登記から始まり、会計・税務・法務の観点からビジネスプロセスの構築を支援します。設立後は、通常業務の開始に伴う様々な契約の締結から、事業拡大や発展、あるいは危機や課題への対応に至るまで、継続的にサポートを行います。ドイツまたは欧州事業から撤退する会社のサポートも行っています。無人化した会社の住所を当事務所に変更し、登記抹消まで一年以上もかかりますので最後までかかわります。
例えば、日系企業がドイツでGmbH(有限責任会社)を設立する際、まず労働許可証付きの滞在許可証の取得を支援します。その後、ドイツ人従業員の雇用の際、雇用契約書を作成し、給与設定の最適化でサポートしています。その他に、法的形態の選択、書類の翻訳と公証の手続きのサポート、輸出入活動に必要なVATIDとEORI登録、事業活動に必要な許可の取得など、幅広いサポートを提供します。
クライアントの日常業務には商品の輸入、販売、マーケティング活動、財務面の月次報告や税務申告にも関与しなければなりませんので弊社は業務フローのデジタル化を強く勧めています。特に新規設立時には、ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)ソフトウェアの導入をお勧めしており、これにより企業の主要業務を効率的に管理し、事業の安定した成長をサポートします。
――ドイツにGmbHを設立しようとする日系企業は、まず税理士や公認会計士に相談するのでしょうか? それとも、自力で対応しようとする企業もありますか?
西村東陽:必ずしも最初のステップとして会計事務所に相談する企業ばかりではありません。しかし、弁護士だけのコンサルティングで進めると、後に税務上の不利益を被る可能性があります。例えば、ビザ申請の方法の選択で、予想外の所得税が課されるなど、進出初期には様々な問題が発生し得ます。
具体的にいいますとドイツの外国人局はビサ申請の必須書類として雇用契約を求めます。海外赴任者の場合はドイツの会社との雇用契約がなくても就労ビサが申請できます。駐在員がドイツ企業と雇用契約を締結すると、所得税の節税を妨げるケースがありますので節税スキームの適用の可能性を先に検討します。節税効果は、時には年間で1万ユーロも超えることもあるため、慎重な対応が求められます。
住民法に詳しい専門家でも、節税方法を熟知しているとは限りません。そこで当事務所は、幅広い分野の専門知識を持つ総合法律会計事務所として、すべての部門が連携して新しいケースに取り組むことで、クライアントにとって最適な長期的ソリューションを提供することができるのです。
――日系企業はどのような経緯でFRANKUSに相談をするに至るのでしょうか?
西村東陽:大手の上場企業の場合、通常はグローバルな大手の監査法人や法律事務所と契約を結び、その国のオフィスが業務を担当することが一般的です。しかし、当事務所はドイツ法に特化し、非常に高い専門知識と経験を有しています。FRANKUSはドイツの日独ビジネス界で広く知られており、口コミや推薦を通じて多くの企業からご相談をいただいています。また、ドイツのインターネットで日本語で税理士を検索すると、当事務所が上位に表示されます。結果として、当事務所にお問い合わせいただいた企業の契約率は約80~90%に達しています。
――日系企業のクライアントは、ドイツ法や日本法についてどの程度理解されていますか?
西村東陽:多くの日系企業がドイツに進出する際、法律や税制に詳しい専門家ではなく、営業や技術系の社員が派遣されることが一般的です。しかし、そのような専門知識を事前に習得する必要はありません。そのために私たちのような専門家が重要なポイントを説明し、対応します。
ドイツでの業務を円滑に進めるためには、ドイツ語能力が求められる場面が多々あります。そのため、進出初期にドイツ語ができる事務員を雇うのが一般的です。例えばGmbH設立後には、詐欺目的の偽請求書が郵送されることもあります。ドイツ語が分からなければほぼ確実にはまってしまいます。
FRANKUSではこのようなリスクを避けるために、設立後に会社へ送られるすべての請求書を払う前にまず当事務所に提出していただくようアドバイスしています。ドイツの裁判所からの偽請求書は外国のIBANなどで識別できます。
――クライアントとの仕事の仕方について教えてください。
西村東陽:私たちはクライアントと緊密に連携し、豊富な経験に基づいて確実なサポートを提供します。まずは、既存のコンサルタントから弊社への移転のプロセス全体の概要をクライアントに説明し、理解してもらうことを大切にしています。クライアントのあらゆるニーズに対応するため、当事務所はワンストップでサービスを提供しています。基本的には固定料金制ですが、工数の事前見積もりが難しい作業については時間ベースでの請求も行います。
クライアントのニーズに応じて、例えばドイツでの初めてのビジネス展開においては、販売代理店契約や商業代理店契約を作成する際、まず希望する内容を詳しく書き出していただきます。その後、ドイツ法に基づき、ドイツ語及び英語併記で定型フォーマットを作成し、クライアントの要望に対応します。こうしたサポートにより、企業側が法的な専門知識を持つ必要はありません。
多くの日系企業は、ヨーロッパ各国で法律が異なることに対する理解が不十分です。他国で適用される条件をそのままドイツでも適用できるか尋ねられることもあります。しかし、法的文書の文体や規則の詳細さは国によって異なります。例えば、英国では会社のハンドブックが非常に詳細である一方、ドイツでは自由で独立した働き方を好むため、過度に細かい規則は従業員のやる気をなくさせるリスクがあります。
――FRANKUSが他のアドバイザーと異なる点について教えてください。
西村東陽:公認会計士や税理士、弁護士などのプロフェッショナルは、その活動内容が法律で厳密に定められています。マーケティングやリクルートメントといった業務は、これらの職業では行えません。そのため、私たちはカタログ化されているプロフェッショナルの活動内容を勘案しながらし、日系企業が必要とするサービスを確認しています。
当事務所の強みは、専門的な知識と語学力を兼ね備えており、仲介業務に優れている点です。会議や交渉の際に、税務や法律の観点からも明確な説明を行うことができます。
日系企業にとって法的な問題に対して明確な解決策がない場合、主観的に最適な選択肢を選ぶための具体的な助言は重要です。大手の法律事務所は複数の法的選択肢を提示することはあっても、特定の選択肢を推奨することを避ける傾向があります。しかし、日本では組織全体で意思決定を行うため、明確な推奨があると決定がしやすくなり、この点が日系企業に評価されています。ドイツに子会社を設立する際、本社にすべてを相談することは難しいため、当事務所はドイツ側の意思決定者にとって重要なアドバイザーとなっています。日系企業との日本語のコミュニケーションと文化的理解も、当事務所の競争力の一つです。
――法律的な違いだけでなく、文化的な違いにも配慮されているのですね。
西村東陽:はい、日系企業がドイツに進出する際には、異なる文化や新しい状況に戸惑うことがよくあります。そのため、文化間の仲介も私たちの重要な役割の一つです。
例えば、日系企業はドイツでの手続きの遅さに驚くことが多いです。日本の税務申告書の提出期限が決算期末の2ヶ月後であるのに対し、ドイツでは通常15ヶ月、場合によっては2年近くかかることもあります。ドイツの制度の違いをご理解いただく必要があります。
また、管理職の多くが日本から派遣されるため、仕事に対する倫理観や価値観の違いが生じることもあります。さらに、言葉の壁や労働文化の違いから、従業員との衝突が発生することも少なくありません。そのため、当事務所では人事や労務に関するコンサルティングも行っています。日系企業は文化的な背景から裁判を避けたがりますが、ドイツでは裁判になることが珍しくありません。このような法的な慣習についても、当事務所がクライアントをサポートしています。
――ドイツに進出している日系企業の会社内の典型的な対立は何ですか?
西村東陽:文化の違いが原因で、日常業務の中で衝突が生じることがあります。日本では、他人への配慮が非常に重視され、自分の権利を主張することが少ない傾向があります。例えば、日本では年間20日の休暇が与えられますが、病気になった時にその休暇を使うため、実際には10日ほどしか休めないこともよくあります。さらに、日本の従業員は病気の際でも同僚に迷惑をかけたくないと考え、無理して働くことも少なくありません。一方で、海外に進出した日本人が、こうした日本の労働文化を見直し、厳しすぎるのではないかと疑問を抱くことも増えています。
――ドイツに進出する日系企業が直面する課題は他に何がありますか?
西村東陽:一つの大きな課題は、専門職の人材不足です。多くの日系企業では、外国人従業員に英語、できれば日本語を話せることが求められるため、適切な人材を確保するのが難しい状況です。また、為替変動も日系企業にとっては大きな問題です。特に、円安の影響が顕著です。企業によっては、リスクを回避するためにすべての取引をユーロで行うことがありますが、現在の円安は輸出に有利に働いており、ドイツの子会社は仕入れコストを抑えつつ、競争力のある価格設定を行えるメリットがあります。他方、欧州の取引先が円安を理由に値引きを求めることもあるかと思います。
――日本とドイツの税制の違いは、企業活動にどのような影響を与えるのでしょうか?
西村東陽:税制面では、日本とドイツでいくつかの大きな違いがあります。法人税は両国とも約30%と類似していますが、個人所得税はドイツの方がはるかに高く設定されています。そのため、ドイツでの駐在員の手取りは、日本で同等の役割を担う従業員に比べて少なくなります。例えば、日本で手取り3,000ユーロを支払うには4,000ユーロの給与が必要ですが、ドイツでは同じ手取りを確保するために5,000ユーロの給与が必要です。また、為替変動も影響し、日系企業がドイツに駐在員を派遣するコストが非常に高くなる要因となっています。このため、課長レベルの駐在員の給与が日本国内の役員と同等になるケースも少なくありません。
――近年、駐在員が減少している背景には、コストが関係しているのでしょうか?
西村東陽:確かに、駐在員のコストは減少の一因ですが、それだけではないと思います。海外拠点の設立時に多くの企業は税負担に対する認識が不足しており、当事務所を通じて初めてその現実に気付くことが多いです。
また、駐在員を派遣する際に直面するもう一つの課題は、長期にわたって海外で働くことに抵抗を感じる社員が増えていることです。かつては単身赴任が一般的でしたが、今の若い世代は家庭や私生活を大切にする傾向が強まっています。
日本社会全体にも変化が見られます。かつては終身雇用制が当たり前でしたが、ここ20年ほどで転職が増えるようになりました。欧米ほどではないにせよ、この傾向は顕著です。
さらに、コロナ禍を経て、ビデオ会議などのデジタルコミュニケーションが浸透し、現地に駐在員を常時配置する必要性が低下したことも大きな要因です。
――最後に、さまざまな課題がある中で、それでも日系企業がドイツを進出先として選ぶ理由は何でしょうか?
西村東陽:日本企業は、ドイツ以外にも英国、オランダ、フランスをEU市場への進出拠点として検討することが多いですが、特に日EU経済連携協定(EPA)により、ドイツは戦略的に非常に有利な拠点となっています。ドイツはEUの中心に位置し、東欧や南欧への物流網も充実しており、さらにはロッテルダム港も近隣に位置しています。この地理的優位性に加え、日EU EPAの恩恵により、日本企業はドイツでの事業展開において関税や規制の緩和といった経済的なメリットを享受できるようになりました。また、ドイツは購買力が高く、工業国として多くの貿易相手国を抱えており、幅広い産業が強力に根付いていることも大きな魅力です。さらに、ドイツと日本は精神性や歴史においても多くの共通点があり、日独間の経済交流が円滑に進む土壌が整っています。戦後のドイツでの経済奇跡は、日本の高度経済成長と同様に、急速な経済復興と成長を象徴しています。
日独間の貿易関係は、日EU EPAを通じてさらに強固なものとなっており、私はこのパートナーシップの重要性を強く感じています。近年のグローバルな危機を背景に、信頼性に欠ける貿易相手国への依存リスクが顕在化しており、日本とEU、特にドイツとの経済連携強化は、サプライチェーンの多様化を促進し、他の大国への依存度を低減するための重要な戦略といえます。今後も日本企業のドイツ市場への進出がさらに加速することが見込まれる中、FRANKUSは法務および税務の専門的なサポートを通じて、各企業が現地での成功を確実に達成できるよう、全力で支援してまいります。