SBIホールディングスは、ソフトバンクの投資部門として誕生して以来、日本のオンライン金融サービスを牽引してきた企業です。銀行・証券といった金融インフラのデジタル化を通じて国内の金融業界に変革をもたらし、現在では700社以上、従業員数19,000名超を擁するグローバル金融グループへと成長しています。ベンチャーキャピタル投資においても国内で最も活発な投資家の一つとして知られ、複数分野で数十億ドル規模の資産を運用しています。その欧州拠点が、ベルリンに拠点を置く SBI Ventures Europe GmbH です。同社は、日本市場と欧州スタートアップを結ぶハブとして、金融・フィンテック領域を中心に投資活動と事業開発を推進しています。今回、J-BIG編集部は、退任マネージングディレクターの栗林武嗣氏、新任マネージングディレクターの岩野頌太朗氏、そしてマネージングパートナーを務めるアンドレア・ベーメルト氏に、SBIの欧州戦略、投資方針、そして欧州企業と日本市場をどのように橋渡ししていくのかについて話を伺いました。
―― SBIの創業期についてお聞かせください。
栗林武嗣: SBIの起源は、創業者であり現在も代表取締役会長兼CEOを務める北尾吉孝が、ソフトバンクで最高投資責任者を担っていた時期にさかのぼります。当社はもともとソフトバンク内の一部門としてスタートしました。
1999年、インターネットが急速に普及し、市場が大きく伸びていた時期に、北尾はオンライン金融サービスの可能性に着目します。同年、当社はベンチャーキャピタルとインキュベーション事業を担う「ソフトバンク投資株式会社」としてソフトバンクから初めて分社化されました。これが「SBI」という名称の原点であり、現在一般に知られる “Strategic Business Innovator” という略称とは異なります。
その後、2002年に上場。2005年には社名を現在のSBIホールディングス株式会社へと変更し、資産運用事業をソフトバンク投資株式会社に移管することで、持株会社体制へ移行しました。2006年にはソフトバンクグループから完全に独立し、現在のSBIグループの形が確立されています。
―― 現在のソフトバンクは、競合相手と捉えるべき存在なのでしょうか。
アンドレア・ベーメルト: ソフトバンクは現在も一部の投資ファンドにおいて有限責任組合員として参画していますが、その出資比率はごく小さく、かつてのような強い関係性はすでにありません。現時点では、競合というよりも、必要に応じて協力するパートナーに近い立ち位置だと考えています。

―― SBI Ventures Europeで働くことになった経緯を教えてください。
栗林武嗣: 私は2014年にSBIグループへ会計担当として入社しました。数年後にSBIホールディングスのリスク管理チームへ異動し、2017年にはロシアの現地法人へ転籍。完全子会社である SBI Bank LLC のCFOに就任しました。
その後、約6年半にわたりPMIの実行管理や財務計画の策定を担当し、各種委員会においても中核的な役割を担ってきました。地政学的環境が大きく変化する中では、ロシアにおける銀行資産・負債の縮小を統括。この実績が評価され、2023年にベルリンへ異動となり、現在は SBI Ventures Europe GmbH のマネージングディレクターを務めています。
岩野 頌太朗: 私のキャリアは、国際協力銀行(JBIC)で大規模な国際インフラプロジェクトへの融資に携わったことから始まりました。この経験を通じて、クロスボーダーファイナンスおよび戦略分野に関する基盤を築くことができました。その後、フランスおよびシンガポールの INSEADでMBAを取得し、視野が大きく広がるとともに、国際的なネットワークを構築する機会にも恵まれました。
MBA取得後は、イノベーションの中心により近い環境で働きたいと考えるようになりました。2024年にSBIインベストメントへ入社したのは、「新産業クリエーター」という同社の理念が、私自身のフィンテックやブロックチェーン領域への関心と重なっていたためです。同社では、グローバルな投資機会の発掘および評価を担当していました。ベルリン拠点を率いる機会が訪れた際、国際金融のバックグラウンドを生かしながら、革新的なスタートアップのグローバル展開を支援できると感じました。自身の経験を結びつけられる、次のステップとしてふさわしいと考え、この役割を引き受けました。
アンドレア・ベーメルト: 2023年秋、29年間暮らした南アフリカを離れ、SBI Ventures Europeのベルリン拠点に加わりました。ドイツで経営経済学を学んだ後、シーメンス社に入社し、南アフリカ地域を担当するコーポレート戦略マネージャーを務めました。その後、同社を離れ、IT起業家向けのコンサルティング会社を設立しています。当時の南アフリカにはベンチャーキャピタルがほとんど存在せず、起業家たちは資金調達に大きな課題を抱えていました。そこで、南アフリカへの強い思いとスタートアップ支援への情熱をもって、SAP共同創業者であり、当時世界有数の資産家であったハッソ・プラットナー氏にアプローチしました。その結果、2,500万ユーロの出資を受け、当時としては南アフリカ最大規模となるVCファンドを立ち上げることができました。その後、2名のパートナーとともにVCファンド「Knife Capital」を設立し、12年間にわたり運営してきました。2023年にSBIからオファーを受けた際、ドイツに戻るタイミングだと判断しました。長年、主要な意思決定の立場で活動してきた私にとって、企業、特に日本企業で働くことはまったく新しい環境ですが、多くを学べる非常に刺激的な経験となっています。
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―― SBIから声がかかった時、その会社はすでに知っていましたか?
アンドレア・ベーメルト: 南アフリカで投資先企業がSBIからの出資を検討していたことがあり、その際に初めてSBIを知りました。そのため、以前から一定の接点はありました。採用のオファーを受けた後に改めて調べてみると、SBIがいわゆる従来型の企業とは異なるビジネスアプローチを取っていることが分かりました。特に印象的だったのは、金融サービス分野においていち早くデジタル化を推進してきた北尾社長の姿勢です。既成概念に挑み続けるSBIのスタンスに強く惹かれました。私自身、理想的な投資のあり方とは、スタートアップの起業家精神と、大企業が持つ力やネットワークを融合させることだと考えてきましたが、SBIはまさにその考え方を体現しています。革新的なマインドセットを持つ、非常にユニークな企業だと感じ、入社を決めました。
栗林武嗣: 一般的に、大企業、とりわけ日本企業は慎重な意思決定を重んじる傾向があり、重要な経営判断ではその傾向がより顕著だとされています。私が2014年にSBIへ入社した当時、同社は国内およびアジア全域での事業拡大を本格的に進め始めた段階でした。
当時、SBIは日本やアジア各国でオンライン証券会社の買収を積極的に行っており、創業当初から新しい挑戦を前向きに受け入れてきた企業です。そうした姿勢の積み重ねにより、SBIホールディングスは現在、日本を代表する金融コングロマリットの一つへと成長しています。
―― SBIは、創業当初からグローバル展開を見据えていたのでしょうか。それとも、まずは日本市場に注力していたのでしょうか。
栗林武嗣: SBIがソフトバンクグループに属していた当時は、日本国内でのオンライン証券取引やオンラインバンキングサービスの構築に注力していました。一方で、日本市場を主軸としつつ、海外スタートアップへの投資機会も並行して模索していました。
2005年以降は国際展開を本格化させ、まず北京にサポートオフィスを開設。その約2年後には、SBIグループの海外事業拠点としてシンガポールに子会社を設立しました。これが、当社のグローバル展開の第一歩となりました。


―― オンライン証券取引について、詳しくない人にも分かるように説明していただけますか。
栗林武嗣: 2000年代初頭、オンライン証券仲介事業はSBIにとって大きな成長機会でした。それ以前の証券取引は、ブローカーが投資家の自宅やオフィスを訪問し、対面で取引を進めるのが一般的でした。こうした旧来型のモデルでは、手数料や取引コストが高く、個人投資家が気軽に証券取引に参加しにくいという課題がありました。
北尾社長は、この仕組みをオンライン化することで市場を大きく変えられると考えました。デジタル化によって、主に二つの効果が生まれました。
一つ目は、運営コストの削減です。金融サービスの価格が下がり、より多くの個人投資家が市場に参加できるようになりました。その結果、日本の株式市場全体の取引量も増加しました。二つ目は、顧客データの活用です。オンライン化により、金融機関は顧客の行動やニーズを把握しやすくなり、より個別化されたサービスを提供できるようになりました。
アンドレア・ベーメルト: SBIは、日本の金融サービス業界において、こうしたデジタル化をいち早く推進した存在です。これは単なる新サービスではなく、業界の構造そのものを変える革新でした。日本でこのモデルを確立した後、SBIは同じ考え方をベースに、各国の市場環境に合わせて調整しながらアジアへと展開していきました。アジア各地での成功を経て、現在はデジタル金融サービスをグローバルに展開しています。
―― 現在のSBIは事業セグメントの構成について教えてください。
栗林武嗣: SBIはもともと純粋な金融会社としてスタートしましたが、現在では5つの事業セグメントを擁する多角化コングロマリットへと発展しています。創業当初からの中核となる事業は三つあります。金融サービスを中心とする創業事業、ETF運用やグローバル資産運用を含む資産運用事業、そして投資、すなわちベンチャーキャピタル事業です。
近年は、金融サービス以外の収益基盤を強化する目的で、さらに二つの事業領域を戦略的に拡大してきました。四つ目のセグメントが暗号資産関連事業です。五つ目は「次世代事業」と位置付けている分野で、量子コンピューティング、メディア、バイオテクノロジーなどが含まれます。こうした多角化は2016年頃から本格化しました。当時、北尾社長がバイオテクノロジーや医薬分野に強い関心を示し、医薬品の製造・研究開発を担う子会社としてSBIバイオテックを設立したことが、一つの転機となっています。
これら五つの事業セグメントを通じて、SBIは持続的な成長を遂げてきました。当社の企業理念は「金融を核に金融を超える」です。金融を基盤としながら、先進的な技術やサービスを取り込み、新たなビジネス機会を創出し続けることで、この理念を実践しています。
―― 新しい事業についても、すでにグローバル規模で展開されているのでしょうか。
栗林武嗣: 各事業セグメントの国際化の度合いは、その事業の成熟段階に大きく左右されます。そのため、新規事業については、現時点では必ずしも国際展開されているわけではありません。ただし一方で、本社はグローバル事業との連携が最も密であり、金融サービスに限らず、他の事業セグメントにおける最新の動向についても把握しています
岩野 頌太朗: その通りです。新規事業分野は、立ち上げ当初は日本市場を主な対象としていますが、海外拠点は戦略的な前哨基地として重要な役割を担っています。なかでも欧州は、世界有数のディープテックやクリーンテックのイノベーションが生まれる地域であり、金融エコシステムも非常に成熟しています。ベルリン拠点の役割は、単に市場を観察することではありません。現地のプレイヤーと積極的に関係を築きながら、SBIの将来の中核事業となり得る技術やビジネスを見極めていくことにあります。私たちは、こうした次世代プラットフォームの将来的な国際展開を支える「ソーシングエンジン」として機能しています。

―― SBIの国際展開について、もう少し詳しく教えてください。中国とシンガポールを起点にアジアで事業を始めたとのことですが、その後はどのように広がっていったのでしょうか。
栗林武嗣: 日本で金融サービスを手がける中で、当社は事業運営や投資に関する知見を着実に積み重ねてきました。こうした経験を土台に、段階的に海外市場へと事業を広げていくことを目指しました。国際展開にあたっては、有望な事業領域を見極めたうえで、既存の市場構造を変革できる起業家精神を持つ企業への投資を重視してきました。各国で一から事業を立ち上げるのではなく、現地市場を熟知したパートナーやステークホルダーと連携し、日本で培った金融ノウハウを提供するという形を取っています。
―― 初めてアジア以外に移住したのはいつですか?
アンドレア・ベーメルト: 日本のSBI証券は、早い段階から日本の顧客向けに外国株式取引サービスを提供してきました。さらに2010年には、米国を拠点とするジェフリーズ・グループと共同で、米国およびアジアの企業を対象とした投資ファンドを設立しています。これが、SBIにとってアジア圏外への本格的な事業展開の第一歩となりました。
―― SBIはいつドイツに進出し、なぜベルリンを拠点に選んだのでしょうか。
栗林武嗣: SBIはグローバルな存在感の確立を目指し、欧州における拠点選定を進めていました。その中で、2019年3月にベルリンに西欧初となる駐在員事務所を開設し、2020年に現地法人化しています。当初は「Strategic Business Innovator GmbH」という社名で活動していました。これは、スイス取引所(SIX Swiss Infrastructure and Exchange)が「SBI」の商標権を保有しており、当時はその名称を使用できなかったためです。
その後、スイス取引所が暗号資産事業への参入を検討する中で、SBIは技術面で協力し、事業立ち上げを支援しました。こうした協業を通じて信頼関係が築かれ、最終的に「SBI」名称の使用について合意に至りました。
アンドレア・ベーメルト: ベルリンを拠点に選んだ理由は、欧州最大級のスタートアップおよびベンチャーキャピタルのエコシステムを有している点にあります。SBIはすでに複数のフィンテック企業へ投資しており、ベルリンには一定の投資実績がありました。
また、フランスやイタリアではなくドイツを選んだ背景には、両国の間にある価値観の近さもあると考えています。品質へのこだわりや長期的な関係構築を重視する姿勢など、日本とドイツには共通点が多い。そうした点から、欧州拠点として最も信頼感を持てたのがドイツだったのだと思います。

―― SBIエコシステム全体において、SBI Ventures Europeの戦略的な役割をどのように位置づけていますか。
栗林武嗣: SBI Ventures Europeは、SBIホールディングスにおける欧州のベンチャーキャピタル部門です。欧州の優れた技術と強い起業家精神を持つチームに投資し、ポートフォリオ企業がグローバル市場へアクセスできるよう支援しています。
SBIが欧州でベンチャーキャピタル事業を展開しているのは、ベルリンに拠点を置く当社のみです。ロンドンには別のグループ会社がありますが、そちらは日本本社向けの証券仲介や銀行業務を担っており、当社とは役割が明確に異なります。
岩野 頌太朗: 当社による「Solaris」への投資は、この理念に基づく完璧な事例です。単なる製品への投資ではなく、未来の金融エコシステムの基盤層への投資です。欧州を代表するBanking-as-a-Serviceプラットフォームとして、Solarisは無数のフィンテック革新を支える重要なインフラを提供しています。SBIにとってこれは極めて戦略的な投資である。欧州市場アーキテクチャの中核部分に参画する権利を得ると同時に、当社が保有する約100社のフィンテック・ブロックチェーン企業からなるグローバルポートフォリオに膨大なシナジー効果を生み出す。欧州フィンテック/ブロックチェーンエコシステムへの当社の関与とこれを組み合わせることで、まさに目指す戦略的ポジションを確立できる。
アンドレア・ベーメルト: 欧州は、SBIの投資ポートフォリオ全体の約24%を占めており、現在およそ20件の直接投資資産があります。SBI本社が欧州資産への直接投資を行う一方で、SBI Ventures Europeは運用会社として、人的ネットワークの構築や対面での関係づくりを重視し、現地エコシステムを継続的に育てています。また、日本のSBIグループ各社やビジネスパートナーからの欧州関連の問い合わせ窓口として機能し、市場調査やトレンド分析、有望なスタートアップの発掘を行っています。本社が欧州案件に関心を示した際には、当社が知見とネットワークを提供するハブとなります。
さらに、独自のベンチャーキャピタル事業も展開しています。欧州VCのRedstone社と共同で設立した「Future Industry Ventures」は、インダストリー4.0や産業技術分野に特化したファンドで、これまでに11件の投資を実行しており、すべてベルリン拠点で管理しています。
欧州と日本をつなぐ架け橋として機能することで、私たちは大きな価値を生み出しています。欧州のポートフォリオ企業に対しては、日本市場への参入を支援し、現地での事業基盤構築や顧客獲得を後押ししています。日本市場は欧州スタートアップにとって参入障壁が高いため、この役割は特に重要だと考えています。

―― 欧州企業と日本市場の間で、どのようにビジネス連携を促進しているのでしょうか。
アンドレア・ベーメルト: 欧州と日本の間でビジネスを構築するには、何よりも信頼関係が重要です。それは電話一本で成立するものではなく、時間をかけて築いていく必要があります。ただし、SBIの名のもとで紹介を受け、日本市場にアプローチする場合、プロセスは大きく加速します。信頼の土台がすでにあるため、議論がスムーズに進み、成功の可能性も格段に高まります。
また、私たちはSBIのコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)事業向けに、調査・分析の支援も行っています。SBIはニコンやパナソニックをはじめとする日本の主要21社のCVCファンドを運用しており、これらの企業が欧州市場や特定の欧州企業に関心を示した際には、必要なリサーチを行い、適切なネットワーク構築を支援します。
最終的に、私たちの投資アプローチの根底にあるのは、北尾氏の哲学です。それは、真に革新的な企業や技術に焦点を当てるという考え方です。私たちは単なる財務的リターンを追求するのではなく、欧州、特にドイツと日本を結び、新しい技術や革新的なアイデアが市場を越えて行き交う環境をつくることで、付加価値を生み出しています。
―― ご自身が注目するスタートアップ企業には、どのような特徴がありますか。
アンドレア・ベーメルト: まず前提として、当社の主な投資分野はフィンテック、ブロックチェーン、そしてメディアです。
投資判断において、創業者の北尾社長が特に重視しているキーワードが一つあります。それが「シナジー」です。この考え方には二つの側面があります。
一つ目は、SBI自身がそこから新しい学びを得られるかどうかです。まったく新しい発想や、これまでにない技術やビジネスモデルを持つ企業であることを重視しています。二つ目は、その企業をポートフォリオに加えることで、どのような相乗効果が生まれるかという点です。SBIが大規模なフィンテック・ポートフォリオを有しているのも、そのためです。異なる企業同士がつながり、アイデアを共有することで、新たな発想が生まれ、グループ全体として価値ある取り組みへと発展していく可能性があります。
そのため、新たな投資先が、他のポートフォリオ企業にとっても有益な顧客インサイトや知見をもたらすかどうかを慎重に見極めています。
栗林武嗣: 加えて、その企業が将来的に日本市場へ進出できる可能性があるかどうかも検討します。ただし、短期的な進出を前提にすることはありません。日本市場への展開は長期的な取り組みであり、まずは事業として一定の成熟度に達していることが重要だと考えています。

―― 欧州のスタートアップ企業への投資に関して、どのような手順を踏んでいますか?
アンドレア・ベーメルト: スタートアップからアプローチを受けた場合、デューデリジェンスの初期段階で必ず確認するのが、シナジーの可能性です。具体的には、これまでに当社が投資してきた企業群と、当該企業がどのような形で関係性を築けるかを検討します。たとえば、SBIが運営する21のCVCの中に、共同投資先や将来的な顧客となり得る企業が存在するかどうか。あるいは、そのスタートアップがSBIのエコシステムにどのように組み込まれ、投資を通じて当社がどのような付加価値を提供できるのか、といった点を見極めます。重要なのは、「この投資によって何が生まれるのか」を明確にすることです。これこそが、私たちの競争優位性につながります。欧州最大のVCファンドではありませんが、SBIには他の投資家には提供できない独自の価値があると考えています。
―― ドイツやヨーロッパの他のベンチャーキャピタルと比べて、御社の特徴について詳しく教えてください。
アンドレア・ベーメルト: 欧州、特にドイツのベンチャーキャピタルの特徴として挙げられるのは、投資先企業が地理的に比較的限定されている点です。多くのVCがDACH地域にフォーカスしており、市場規模としては十分に成立しています。しかし、投資先企業が次のステージとして本格的なグローバル展開を目指す段階になると、必要なネットワークや実務的な知見を十分に提供できないケースも少なくありません。たとえば米国市場は競争が非常に激しく、欧州での成功がそのまま通用するとは限りません。加えて、米国の投資家は条件として、創業者に企業全体の米国移転を求めることも多いのが現実です。
ここに、私たちの明確な差別化ポイントがあります。真にグローバルな市場へのアクセスを提供できるドイツのベンチャーキャピタルは、実はごくわずかです。私たちは日本市場を深く理解しているだけでなく、ポートフォリオ企業のために具体的に扉を開くことができます。しかも、その対象は日本にとどまりません。SBIはアジア全域、米国、中東(主にGCC諸国)、さらにはアフリカに至るまで、広範なネットワークを有しています。こうしたグローバルアクセス能力こそが、欧州VC業界における私たちの最大の競争優位性の一つです。さらに、SBIは世界各地で多様な金融機関の運営に関与し、これまでに約100社に及ぶフィンテックおよびブロックチェーン関連スタートアップへ投資してきました。その経験を通じて成功の要因を理解し、ネットワークを活かしながら、パートナー企業同士を結び付けることができるのです。

―― SBIの現在の規模と市場における位置付けについて教えてください。
栗林武嗣: SBIホールディングスは、上場金融コングロマリットとして金融分野における主要プレイヤーの一社として確固たる地位を築いています。現在、700社を超える企業をグループ傘下に持ち、世界各地で約19,000人の従業員が事業に従事しています。グループ全体の財務実績も非常に堅調で、複数の事業セグメントにおいて高い成長率と過去最高水準の成果を記録しています。投資部門だけでも約65億米ドルの資産を運用しており、そのうち約24%が欧州関連の投資です。ベンチャーキャピタル分野では、SBIインベストメントが日本で最も活発な投資家の一社となっており、1,200社以上に及ぶ企業ポートフォリオを管理しています。
アンドレア・ベーメルト: ベルリン拠点は7名という非常にコンパクトなチームですが、メンバー全体で30年以上にわたる投資経験を有しています。日本、ドイツ、中国出身のメンバーで構成された国際色豊かなチームであることも、大きな特徴です。また、毎年主に米国の大学から多くのインターンを受け入れており、この多様性が私たちの競争力を高めています。異なる文化的背景を持つことで、各国・各市場に特有のビジネス環境や交渉スタイルに柔軟に対応することが可能です。日本国内ではSBIは圧倒的な存在感を持っていますが、欧州におけるブランド認知度は、まだ発展途上の段階にあります。
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―― ヨーロッパでの認知度を高めるために、どのような取り組みを行っていますか?
アンドレア・ベーメルト: 当初は商標上の制約により「SBI」という名称を使用できないという課題がありましたが、現在はブランド名およびロゴの使用権を確保できたことで、マーケティングや対外コミュニケーションの効果が大きく向上しました。現在は、カンファレンスやネットワーキングイベントへの戦略的な参加を通じて、認知度向上に取り組んでいます。
多くの日本企業が欧州での投資やM&Aに関心を持つ一方で、現地の投資環境や実務に関するノウハウが不足しているケースは少なくありません。すでに欧州に拠点を構える企業であっても、投資部門を持たないことも多いのが実情です。また、日本企業はとりわけ海外資産に対して慎重な視点を持ち、欧州企業とは異なる判断軸で意思決定を行う傾向があります。私たちは、日本と欧州双方の市場や文化への理解を強みに、デューデリジェンスや市場調査を通じて、そのギャップを埋める役割を果たしています。
さらに現在、欧州におけるブランド認知度を一段と高めるための新たなプロジェクトも進行中です。フィンテックおよびブロックチェーン分野に特化した欧州向けの新VCファンドの立ち上げを準備しており、これはSBIが長年培ってきた同分野での知見と強く結びつくものです。この新ファンドを通じて、欧州ベンチャーキャピタル市場における存在感をさらに高めていきたいと考えています。

―― 岩野頌太朗、SBIベンチャーズヨーロッパの新任マネージングディレクターとして、今後の計画について詳しくお聞かせください。同社が欧州で注力する分野と、どのような影響力を実現したいとお考えですか?
岩野 頌太朗: 栗林氏から指揮を引き継ぐことができ、感謝しております。同氏はここに素晴らしい基盤を築いてくださいました。今後、私の戦略は明確かつ焦点が定まっています。
第一に、中核となる専門性をさらに強化します。アンドレアが述べた新たなフィンテック・ブロックチェーン基金が、この取り組みの中核となります。我々は単なる資金提供者ではなく、グローバルなポートフォリオと深い業界知見を持つ事業運営者である点で明確な優位性があります。こうした特定事業をスケールさせるために必要な要素を熟知しています。次に、「橋渡し」能力の体系化を進めます。単なる紹介だけでは不十分です。欧州企業が日本およびアジア市場に進出し成功するための、再現性のある高付加価値の道筋を構築したいと考えています。
私の究極の目標は、SBIベンチャーズヨーロッパが欧州のフィンテック/ブロックチェーン企業の資本構成において、広く認知され、独自の付加価値を提供する投資家として認知されることです。真にグローバルなアクセスを実現する存在として。



