エゴンゼンダーのリーダーシップ・アドバイザリー・コンサルタントである小川佳子氏と、J-BIG創設者兼編集長であり、PRエージェンシーStorymakerの共同オーナー兼マネージングパートナーを務めるビョルン・アイヒシュテット氏は、2026年に「Leadership Dojo(リーダーシップ道場)」を立ち上げます。これは、ドイツで事業を展開する日系企業のCレベルエクゼクティブのための、インスピレーショナルなコミュニティです。
本対談では、急速に変化する時代をリーダーがいかに乗り越えていくべきか、そして異文化環境におけるリーダーシップにおいて、なぜアダルト・ディベロップメント(成人発達)なぜ重要なのかについて議論しています。また、ドイツと日本で生まれ育ったリーダーたちが、自身の本質と向き合い、互いにストーリーや経験を共有しながら学びあうための安全な場をつくることを目指すに至った理由と、本取組みの構想についても紹介します。
ビョルン・アイヒシュテット:今年、私たちは「Leadership Dojo」を立ち上げます。この構想は、実は約2年前から温めてきたもので、Cレベルのエクゼクティブが日々の喧騒や緊急対応から一歩離れ、自分がどんなリーダーでありたいのかについてあらためて見つめ直し、自己成長に取り組むための場です。ここでは、志を同じくする仲間とともに、リーダーが自らの目的意識と再びつながり、リーダーとしてのアイデンティティを再調整し、持続的で意味のあるインパクトを生み出すための自己認識を、仲間とともに深めていくことを目指しています。まさに、現代のリーダーのための道場です。
小川佳子:その思いが、「道場」という名前の理由です。私たちは二人とも日本の武道に親しんできました。私は剣道を、ビヨルンさんは柔道を経験され、現在は合気道にも取り組んでいらっしゃいます。武道における道場とは、仲間とともに鍛錬を重ね、昨日の自分を超えていくための場です。そこでは他者との優劣を競うのではなく、自らの成長に向き合うことが本質とされます。道場には、失敗してもいい、弱さを見せてもいい、誰からもジャッジされずに問いを投げかけられる、そんな特別な空気があります。私たちがドイツと日本のリーダーのために創りたいのも、まさにそのような、安心して自己と向き合える場なのです。

ビョルン・アイヒシュテット:構想の詳細に入る前に、まずは自己紹介から始めたほうがよいかもしれませんね。それぞれの歩みこそが、「Leadership Dojo」がなぜリーダーの力になれると信じているのか、そしてなぜそこに情熱を注いでいるのかを理解するうえでの重要な背景になると思うからです。
まずは、ご自身のこれまでのご経歴についてお聞かせいただけますか。
小川佳子:私はエゴンゼンダーで、リーダーシップに関するコンサルティング業に従事しています。同社はエグゼクティブ・コンサルティング分野における世界的なリーディングファームであり、企業の経営課題に対して「人」を起点とした解決策を提供しています。具体的には、CEOやCXOのサクセッション支援、エグゼクティブやボードメンバーのサーチ、アセスメント、コーチングなどを手がけています。
私は自然豊かな佐賀県に生まれ、幼少期には国内で何度も転居を繰り返して育ちました。新しい環境に身を置き、適応するたびに、人に対する関心がいっそう強まりました。「人はなぜその行動を取るのか」「なぜ人は言葉にすることと、言葉にしないことがあるのか」そうした疑問がうずっとありました。
その好奇心は、アメリカ留学を機にさらに広がりました。初めて「日本を外から見つめる」経験を通じて、自分が当然だと思っていた価値観が相対化されたのです。大学卒業後はIBMのPeople and Organisation Strategy Consulting部門に入社しました。また別の角度から日本を見つめ、「人」を深く理解したいと考えたからです。
ビョルン・アイヒシュテット:その後、エゴンゼンダーにリクルートされたのですか。
小川佳子:IBMで働いていた頃は、日本の大手企業に対し、事業戦略や組織戦略の策定から人事情報システムの導入まで、幅広いコンサルティングを提供していました。しかし次第に、プロジェクトが持続的なインパクトを生み出すためには、クライアント側に本気で変革に取り組むリーダーの存在が不可欠であると気づきました。そうでなければ、どれだけ資料作成や分析に時間を費やしても、悲しいことに形だけで終わってしまう。
そんなタイミングでエゴンゼンダーに出会いました。。当初はその存在を知りませんでしたが、Cレベルに特化した企業であるため、一般的にはあまり名前が表に出ません。「“Leadership for a Better World(より良い世界のためのリーダーシップ)”」という理念に強く惹かれ、ビジネスインパクトの源泉を人に置いている姿勢に共感し、2018年に東京オフィスへ入社しました。
同社では、日本の大手企業におけるCEO・CXOの後継者計画を、評価や育成の観点から支援しました。その後、シュトゥットガルトで働くドイツ系米国人の夫と結婚し、2020年、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった時期にシュトゥットガルト事務所へ転籍しました。欧州およびドイツ企業への支援を通じて活動の幅を広げると同時に、異なる文化で活躍するリーダーへの理解をさらに深めたいと考えたためです。
小川佳子:欧州企業を支援する通常業務のかたわら、興味深い事実に気づきました。ドイツには活発な日本人駐在員のコミュニティがあり、同時に、日本企業で働くドイツ人のCEOやCXO活躍しています。しかし、驚くほど共通した課題に直面しているにもかかわらず、両者が企業の枠を越えて対話する機会はほとんどありません。
私にキャリア初期、グローバル化を目指す日本企業を支援していた頃、日本側の関係者が海外子会社に課題の原因を求める声をたびたび耳にしました。その後、欧州で働き、ドイツ側の立場から日本企業を見るようになると、今度は逆の現象を目にしました。双方が、ほぼ同じ問題を、それぞれの立場から語っているのです。この状況を見過ごすことはできませんでした。日本と欧州双方の経営層に関わってきた立場として、両者が共に学び、共に成長できる場をつくりたいという思いが強くなりました。ビヨルンさんはいかがでしょうか。

ビョルン・アイヒシュテット:私の歩んできた道のりはかなり異なりますが、たどり着いた地点は案外近いのかもしれません。私はドイツ国内で引っ越しを重ねながら育ちました。その後、両親が離婚し、父は当時「壁」に囲まれていた西ベルリン、すなわち共産圏の中にある都市へ移り住みました。私は母と妹とともにバーデン=ヴュルテンベルク州に残り、隔週末ごとに父を訪ねていました。父は医学部の教授で、研究のために世界各地を飛び回っていました。年に一度は私を学校から休ませ、南米やオーストラリア、アジアなどへ連れて行ってくれました。12歳になる頃には、南極を除くすべての大陸を訪れていました。世界を自由に見て回る一方で、壁に囲まれた都市を何度も行き来するという、どこか対照的な体験を重ねていたのです。こうした経験から、私は「分断」というものに強い関心を抱くようになり、物事や人がどのように橋渡しされ得るのかを考えるようになりました。幼い頃に両親の別れを経験したこともあり、なぜ人はうまく共存できないのかという問いを、常に心のどこかに抱えていました。
1987年、12歳のとき、私は学校で初めて任天堂のゲーム機を持つ子どもになりました。購読していたゲーム雑誌には、年に一度、東京ゲームショーの特集が10ページにわたって掲載されていました。そこで、自分が夢中になっていたテクノロジーやインタラクティブな物語の多くが日本から生まれていることに気づいたのです。そこから、日本という国そのものにも強く関心を抱くようになりました。
その後、私は生物学を専攻し、とりわけ神経生物学を専門としました。1990年代はインターネットが広がり始めた時代で、新しい形のつながりが生まれていく様子に強い魅力を感じていました。オンラインで知り合った友人は、『ザ・シンプソンズ』の英語オリジナル版を録画してビデオテープに収め、ドイツにいる私へ郵送してくれました。こうした新しい対人関係の可能性を目の当たりにするなかで、私は次第に、人と人を結ぶ仕事、すなわちコミュニケーションを通じて橋を架ける役割を担いたいと考えるようになったのです。
小川佳子:今のお仕事は、これまでのご経験やご関心がすべて一本の線でつながっているように感じますね。

ビョルン・アイヒシュテット:私は、ストーリーテリングやコンテンツ制作、企業コミュニケーションを専門とするエージェンシー「Storymaker」を共同で経営しています。2001年に同社初の研修生として入社しました。当初はテクノロジー企業を担当し、エンジニアとマーケティング担当者では思考様式もコミュニケーションの取り方も大きく異なることを学びました。技術的な論理と市場志向の発想を結びつけることが、私の最初の役割でした。
その後、年月をかけてエージェンシー内で日本関連ビジネスを立ち上げ、拡大してきました。日本は常に私の個人的な関心の対象でもありました。2010年には妻と新婚旅行で日本を訪れましたが、その際、ドイツ以上に日本のほうが自分にとって自然な場所のように感じられたのです。日本には強い共同体意識があり、物事が相互につながっているという感覚があります。一方、ドイツでは個人を起点に考える傾向が強く、人と人との距離も比較的明確に保たれているように思えました。
小川佳子:その通りですね。ドイツに在住する日本人の方々からは、「人との関係を築くのが難しい」「知り合いを増やしたり、コミュニティを形成したりするのに苦労している」といった声をよく耳にします。
ビョルン・アイヒシュテット:私も、日本人駐在員のコミュニティと、日本企業で働くドイツ人のCEOやCXOとの間に、ほとんど交流がないことに気づきました。また、日独企業のプロジェクトに携わる中で、本社と現地子会社の間で十分な意思疎通が図られていないケースも数多く見てきました。双方が相手の理解不足を指摘し合いますが、実際にはどちらのチームにも優秀で経験豊富な人材がそろっています。それにもかかわらず、両者の間にある見えにくい溝のようなものが、円滑で効果的な協働を妨げているのです。
小川佳子:まったく同感です。誰もが高い知性をもって仕事に取り組んでいますが、その知性は往々にして、自らが育ってきた環境や、無意識のうちに身につけてきた価値観によって方向づけられています。だからこそ、自分の前提に気づき、それを問い直そうとする姿勢と好奇心があって初めて、視点を広げ、自身や周囲の在り方を客観的に見つめ直すことができるのだと思います。
ビョルン・アイヒシュテット:その通りですね。日独間で繰り返される誤解やコミュニケーションの行き違いを目にするうちに、私はその背景にある構造的な違いをより深く理解したいと考えるようになりました。たとえば、日本側がドイツの展示会に寄せていた期待に、当初は戸惑いを覚えたことがあります。私の視点では、現実との間にわずかなずれがあるように感じられたからです。しかし実際に日本の展示会を訪れてみて、その期待がどのような前提から生まれているのかを理解しました。日本の展示会は総じて比較的コンパクトであるのに対し、ドイツの主要見本市は規模も構造もはるかに大きく、
日本企業とのプロジェクトを重ね、出張を重ねる中で、私は次第に、日本企業の思考様式を深く理解していると感じるようになりました。そこから、「日本側から学んだ視点を、ドイツのビジネスリーダーにも伝えたい」という思いが自然に芽生えました。
その延長線上で、日本企業のビジネス観を日独ビジネスコミュニティにより身近なものにしたいと考え、2020年にJ-BIGを創刊しました。当時すでに約40社の日本企業と協働していましたが、ドイツのメディアにおいて、私が現場で見てきたような深度で日本企業が取り上げられる機会はほとんどありませんでした。そこで、ドイツで活動する日本企業の経営層に、自らの視点や経験を関心ある読者層と直接共有していただく場をつくりたいと考えたのです。そこには、掘り下げるべき多くのテーマと示唆があります。全体最適を志向する思考様式、独自の歴史的背景、企業活動に息づく哲学、固有の生産アプローチ、さらには国境や組織を越えて広がる強いコミュニティ意識など、多面的な価値が存在しています。

小川佳子:日本人の立場から見ると、少し日本を理想化しすぎているようにも感じますね(笑)。ただ、そのような視点で日本を語っていただけるのはとても興味深いです。同時に、日本人もドイツから学べる点は多いと感じています。たとえば、ドイツの文化は課題そのものに正面から向き合い、問題があれば率直に議論することを良しとします。一方で日本では、対立の存在を表立って認めることを文化的に避ける傾向があります。私はドイツのこうした姿勢は素晴らしいと思います。非常に実務的であり、人と論点を切り分けて考えるため、より建設的な解決策にたどり着きやすいと感じるからです。ほかにも挙げればきりがないほど、私たちはドイツから多くの示唆を得ることができます。
ビョルン・アイヒシュテット:その通りです。私が日本企業と仕事をする中で学んだことの一つに、計画策定の徹底ぶりがあります。数年単位で、非常に緻密かつ詳細な中長期計画を立てているケースを数多く目にしてきました。一方で、その後に人事異動が行われ、計画を主導していた本人が別のポジションへ移ると、後任者が改めて計画を作り直すという状況も起こり得ます。これに対し、ドイツではより効率性や実行可能性を重視した、実践的な進め方が取られる傾向があります。私は、いずれの文化にも明確な強みと弱みがあり、相互のアプローチを理解し合うことでこそ、大きな学びと価値が生まれると考えています。


小川佳子:そうですね。日独の共通点や相違点について対話を重ねる中で、私たちは次第に、より本質的で深いところに重要な気づきがあると感じるようになりましたよね?
ビョルン・アイヒシュテット:その通りです。ずっと深いところです。問題解決は、私たちがこれまでに培ってきた思考の枠組み、いわばパターン認識に大きく依存します。文化が違えば思考パターンも違うし、専門分野が変わっても、時代が違っても良しとされる行動や思考のパターンは変わります。未知の状況に直面して戸惑うのは、ごく自然なことです。どれほど優秀な人であっても、自身の経験や前提を超える課題に向き合った瞬間、判断や行動の効率が一時的に低下することは避けられません。
小川佳子:だからこそ、特にリーダーにとって「成人発達(アダルト・ディベロップメント)」に根ざした現代的なリーダーシップが重要になります。
Cレベルの経営層は、並外れた、そして絶え間ないプレッシャーの中で働いています。。その意思決定は組織や市場のみならず、人々の生活にも影響を及ぼします。そして失敗の余地は限りなく小さく感じられます。その結果、多くのリーダーは暗黙の期待を背負うことになります。すなわち、常に確信と自信、統制力を示しながら、完璧な成果を出し続けなければならないというプレッシャーです。発言や振る舞い、発するメッセージは慎重に管理され、「隙を見せないこと」が無意識に当たり前となりがちです。
しかし、この期待は、学習や適応、そして現代のリーダーシップの在り方とは徐々に整合しなくなっています。今日の世界は分断が進み、予測は困難となり、変化は急速かつ直線的ではありません。世界的な危機、テクノロジーの破壊的進化、さらにはAIの急速な浸透によって、、リーダーを取り巻く前提条件は根本的に変化しているのです。どれほど経験豊富であっても、すべての答えを持ち得るという前提はもはや成立しません。それにもかかわらず、「すべてを知っているリーダー」というイメージは、組織の中にも、そしてリーダー自身の自己認識の中にも依然として残っています。
これから前進するために求められるのは、好奇心と他者の視点を取り入れる姿勢、そして「私が何か見落としているとしたら、何でしょうか?」「別の視点が欲しいです」といった質問を率直に投げ掛ける勇気です。これらは弱さではなく、健全な判断の前提条件です。しかし現実には、多くのCレベルの経営者には、このリーダーとしてのトランジションを試行できる「安全な場」がほとんど存在していません。
ここに大きなギャップが生まれます。現代のリーダーシップに求められる姿と、リーダー自身が「見せてもよい」と感じている姿との間のギャップです。
今日における優れたリーダーシップを再定義することは容易ではありません。目に見えるロールモデルは限られており、評判リスクを負うことなく新しい在り方を試せる環境はさらに限られています。
この転換を実現するために必要なのは、信頼できる質の高い環境です。そこでは、思考を言語化し、前提を問い直し、失敗から学び、同等の責任を担う仲間と率直に対話することができます。「わからない」と認めることが不利に働くのではなく、より良いリーダーシップへの出発点となる空間です。
多くのCレベルの経営者にとって、このようなコミュニティは最も見つけにくい存在でありながら、存在すれば極めて高い価値を持つものなのです。

ビョルン・アイヒシュテット:そこで「Leadership Dojo」の出番です。重要なのは、これが一般的なネットワーキングの場でも、知識を一方的に伝達する場でもないという点です。正しいお辞儀の仕方や名刺交換の作法を学ぶような場ではありません。
小川佳子:その通りです。私たちが目指しているのは、「未知」という居心地の悪いものと心地よく向き合える力を育むことです。その未知とは、異文化であったり、新しい技術であったり、変化し続ける市場環境であったり、あるいはリーダーシップそのものに対する新たな視点かもしれません。重要なのは、個別の事象ではなく全体像を捉えることです。不確実な状況の中でも、自分らしさを失わずに前へ進む力を養うことを目指しています。
ビョルン・アイヒシュテット:では、2026年7月初旬に第1回「Leadership Dojo」を開催するにあたり、参加者の皆さまにはどのような体験をしていただきたいとお考えですか。
小川佳子:第1回目のイベントは、2026年7月2日にミュンヘンで開催を予定しています。当日はCレベルのスピーカーが基調講演を行い、企業文化がいかに企業の成功を形成し、発展させ、持続させてきたのか、そしてそれが組織で働く人々にどのような影響を与えてきたのかについて掘り下げる予定です。
ビョルン・アイヒシュテット:その後はラウンドテーブル形式で、参加者同士が互いを知り、それぞれの経験やストーリーを共有できる時間を設けます。業界の同僚やサプライヤー、パートナー、投資家といった立場をいったん離れ、同じような課題に向き合う一人のリーダーとして出会う場にしたいと考えています。私自身も非常に楽しみにしています。
2026年7月2日にミュンヘンで開催予定の第1回「Leadership Dojo」への参加にご関心のある方は、ぜひ参加希望のご登録をお願いいたします。本プログラムは少人数・招待制で実施いたします。参加枠が確定次第、事務局よりご連絡いたします。




